スナバコ

「領主、呪術師を拾う」校正メモ(上が新しく、下が古い)

その内容は、帳に遮られて不明瞭だが、しかし、動揺の程を知るには十分だった。

衣装に、荷、そのどれもが華やかだが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

続けて左方の留め具を外し、ひらり、埃りっぽいの地面へ降り立つ。

誰の衣装、どの荷も皆華やかだが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

午後の曖昧な日に照らされる女領主は、無論、従者の男衆より小柄だ。

続けて左方の留め具を外し、ひらり、埃りっぽいの地面まで降り立った。

その内容は、帳に遮られて不明瞭だが、しかし、動揺の程度を知るには十分だった。

そう言って、鼻を掻くように口元に手を当てて宙を見た。

衣装も荷も皆華やかだが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

四人の強力に担がれる御輿は、整然と続く足音を楽とし、赤い鳥の掛け布や金の色装飾具などを躍らせる。

四人の強力に担がれる御輿は、整然と続く足音を楽とし、華やかに染織の布や金の色装飾具などを躍らせる。

隊列を組む戦士、土産の葛籠が続く様は人の目を引き付ける。

土産の葛籠は五色の布で括られ、それが十と続く様は人の目を引き付ける。

土産の葛籠は五色に飾られ目を引くが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

会談先から贈られた五色飾りの葛籠が目を引くが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

そこへ壮麗な一行が差し掛かったのは、日が陰る前、全てが浅い光に包まれる頃だった。

そこから一息で左方の留め具を外し、ひらり、土の地面まで降り立った。

その内容は、帳に遮られて御輿には届かない。が、動揺の程度を知るには十分だった。

四人の強力に担がれる御輿は、整然と続く足音を楽とし、華やかに布や装飾具などを躍らせる。その演舞は、主の館まで続くと思われた。

会談先から贈られた葛籠が目を引くが、今、谷を登り切るそれには敵わない。

そこへ壮麗な一行が差し掛かったのは、日が陰る前のことだった。

そこから装飾具を掃って首にかけ、御自ら呪術師の止血しようとした。

「ただの打ち傷じゃろう。さっさと止血せい」

四人の強力に担がれる御輿は、華やかに布や装飾具などを躍らせる。整然と続く足音を楽とし、その演舞は主の館まで続くと思われた。

整然と続く足音を音に、その演舞は主の館まで続くと思われた。

「ただの刀傷じゃろう。さっさと止血せい」

矢傷、刀傷、槍傷、打ち傷、切り傷、刺し傷、擦り傷、

空を背に映え、堂々とした足音が響く様は、

会談先から贈られた葛籠が、その中で特に目立っていた。もっとも、今、谷を登り切るそれには敵わない。

皆同じ様式の衣や防具をまとい、粛々と進む様はいかにも威厳に満ちている。その中で目を引くのは、会談先から贈られた葛籠であった。しかしそれに勝る華やかさを、この列は持っていた。今、谷を登りきる。

それは色とりどりの布と装飾具で飾られ、絢爛豪華だった。

この列をより印象深くしている。

日が強い残り火を掲げる前のことだった。

領主の行列が通りかかったのは、日も下ろうとする頃だった。

言うが早いか、己の頭上からはらりと、何重にも巻かれた頭巾を取る。そこから装飾具を掃って首にかけ、御自ら呪術師の止血しようとした。

トトイカの谷を越えてウル=ルシヤ峠までは、比較的なだらかな道が続く。領主の隊列は、日が傾きかけた頃にそこを通りかかった。
がくんと、御輿が揺れた。中にいた女領主は、吊革をきつく掴み身を縮める。険しい道中、傾くも揺れるも幾度とあったが、今回は何やら空気が妙である。
(何に遭おうたか……)
女領主は、吊革を握りしめながら、垂れ布越しに外の様子を窺った。御輿の周りは立ち止まってしまい、従者共も互いに声を掛け合うだけで動いている様子はない。女領主はふむと息を吐き、それから背筋を伸ばして息を吸い込んだ。
「何事じゃ」
大音声で外へ呼び掛ける。御輿が揺れ、女領主は眉を寄せた。外では御輿の周囲を守る従者の一人が、駆け足で正面につき膝を折っていた。彼は朗々とした声で女領主の問いに答える。曰く、先頭で不埒者と鉢合わせし、立ち往生していると。
「不埒者、とな」
はっきりした声で問い直し、女領主はきゅっと口をすぼめる。細めた眼からは、赤茶色がぬらりと光った。
(ここは峠の手前のはず。さすれば、噂の浮浪者か。旅の者を襲う盗賊とも憶われておったな)
女領主は狭くて窪んだ床に座り直し、正面の、従者が伏せているだろう辺りを見た。彼は続けて慇懃な言葉で待たせようとしている。女領主は眉間に皺を寄せ、肩を怒らせて声を遮った。
「下がれ。もうよい、御苦労であった」
そう言って、鼻を掻くように口元に手を当てて宙を見た。
従者の中には相変わらず、御輿の近くであるのに声をひそめ忘れる者がいる。その内容は、御輿までは帳が遮り届かない。が、動揺の程度を知るには十分だった。
女領主は、狭い御輿の中ですっくと立ち上がった。一息に、左方の垂れ布の留め具を外し、ひらり、土の地面へと舞い降りた。
従者からどよめきが上がる。
「下がりおれ」
しゃらん、と体中に身に付けた装飾具を鳴らしながら、女領主は素早く従者を抑えた。
日暮れ前の弱い光に照らされる女領主は、さすがに従者の男衆より小柄である。しかし、何枚にも着こんだ煌びやかな衣、凛々しい顔に描かれた長であることを表す化粧、そして彼女自身の、只ならぬ者の気配で周囲を黙らせる。
鷹揚に歩く女領主は、易々とこの度の事件の種を見た。黒ぽく丈の長い装束の旅人が一人、道の先に血を流して倒れていた。不埒者は、あの者を襲ったらしい。
(呪術師を襲うとは、まあ、なんと勇気のあることか! それと比べてあしの男衆はそろいもそろって腑抜けよ)
嘆息を隠しながら、女領主は倒れたる呪術師に近づく。周囲の従者は、固唾を飲んで成り行きを見守っている。
「何をしておるか」
遠巻きにしている従者を一喝し、女領主は裾をたくしあげながら呪術師の横に屈みこんだ。そして、地面へ放りだされた力のない腕をとった。
(ふむ。息もあるな)
確認の済んだ女領主は、衣を谷から吹き上げる風に揺らし、ゆっくりと立ち上がる。そして、未だ距離を置いて囁き合う自分の従者を凄んだ。
「ただの刀傷じゃろう。さっさと止血せい」
言うが早いか、己の頭上からはらりと、何重にも巻かれた頭巾を取る。そこから装飾具を掃って首にかけ、御自ら呪術師の止血しようとした。

トトイカの谷を越えてウル=ルシヤ峠までは、比較的なだらかな道が続く。そこへ今、領主の隊列が登ってきた。辺りは頂点を通り過ぎた太陽が、夕暮れ前のあの強くも弱くもない光で、漠然と照らしていた。御者も強力も皆、表情を持たなかった。ただ、険しい谷を登りきったものは、残りの道に今ほどの難所がないことを思って、僅かに表情が緩んでいた。
谷から登ってくる列はまだ続いている。今現れた大きな御輿は、領主が乗るものだ。派手な布で覆われ、飾りも多く、柄には見事な意匠が彫りこまれている。

女領主は、吊革を握りしめながら、垂れ布(布の帳)越しに外の様子を窺った。

従者の中に我に返るものが出る前に、女領主は

従者の男衆と比べれば小さな女領主は、何枚にも着こんだ煌びやかな衣と豪奢な装飾具、長であることを表す化粧を凛々しい顔に描き、只ならぬ者の気配で周囲を黙らせる。

押し留めようとする従者を素早く抑え、女領主は鷹揚に歩き始めた。

慇懃な言葉でここに待たせることを述べるので、女

そう言って己の何重にも巻かれた頭巾を取り、掃った装飾具を首にかけ、御自ら呪術師の止血しようとした。

遠巻きに誰も近づこうとしない呪術師に、女領主は脇で屈みこみ、放りだされた腕をとった。

が、事は賊との鉢合わせだけではないと容易に察せられた。

女領主はつかつかと歩み寄り、屈んで

が、事は賊との鉢合わせだけではないと容易に察せられた。

もっともそれは、外界から隔離された御輿の中までははっきりと聞こえない。

慇懃な言葉でお待ちいただけるようにと言い述べるので、

吊革に思い切り掴みかかり身を縮める。

列の中央まで谷を上がったとき、一番壮麗な御輿ががくんと揺れた。

そこに領主の煌びやかな隊列が、傾き始めた日に照らされながら登っていた。

列のすべてがトトイカの谷を越える前に、中央についていた

、峠までの道のりに差し掛かっているところだった。

皆同じ様式に染めた壮麗な衣や防具をまとい、趣の異なる山羊に括られた葛籠は、会談した領主からの手土産であった。それにも勝って目を引くものが、列の中央、ちょうど谷を登りきったところにある。四人の強力に担がれる御輿だ。色とりどりの布と装飾具で飾られたそれには、この地の領主が乗っている。

その道はこの領地と他の領地を繋ぐ、特に領主も使う道ということで特に手入れされていた。日の傾き始めた頃、ちょうどその領主の隊列が、峠までの道のりに連なっていた。

「今、確認している最中でございますが、どうやら、不埒者と鉢合わせした様子でございます」
「卿におかれましては、しばしそのままお待ちいただけるよう、」