彼は情けない表情を浮かる。
衣擦れの音と、薬草のツンとした香りで客間が満たされる。
老緑、灰青、砂色……
それらに紛れて、嫌悪感の湧く不味さが纏わり付いていた。
娘も、長く編んだ濃紺の髪すら一切動かさず、じっと視線を止める。
淡々とした答えが呪術師に返される。
白茶と琥珀の、風を留めることを表す幾何学模様が戸を飾っている。
呪術師は右に視線を傾け、ある一点に留めた。
彼は、被り物のない呪術師は微かに頷いた。
ふうっと息を吐き、顔を一切動かさずに真上を見つめた。
思い当って、彼は情けない表情を浮かる。
言い終えて娘、女領主は、再び風模様の戸の向こうへ消えた。
臭いから知れるのは様々だ。
鼻が知るものは様々だ。
衣擦れの音と、薬草のツンとした香りで、傷病人の客間が満たされる。
ふうっと息を吐き、顔を一切動かさずに天井を見つめた。
それらに紛れて、嫌悪感の湧く臭いが付き纏っていた。
不味くて嫌な臭いが付き纏う。
それらに紛れて、ほんの僅かに特徴のある臭いがしていた。
そして足元へ姿を消し、ぬっと彼の左に現れる。
娘はつかつかと四歩進むと、籠を呪術師のもとへ置く。
直に風模様の戸が、ガタガタと音を立てて開く。
鼻が嗅ぎ取るものは様々だ。
顔に覆いはない。
彼は目を開けず、明澄な音を拾っていた。
大気の波を明澄に知ることができた。
彼は目を開けず、音を拾っていた。
右手に見える戸には、風を留めることを表す幾何学模様が、白茶と琥珀の色で見事に織り上げられていた。
臙脂や老緑、灰青、砂色の鮮やかな毛織物の一つで、
それは鮮やかな毛織物の一つで、何枚も使って壁や天井を覆っている。
淡々と、呪術師の問いに答える。
不躾な質問に娘は眉をひそめるも、一時のことだった。
遠くに家畜の鳴き声を聞きながら、彼はまだ目を開けなかった。
癖のある金茶の髪が、額に頬に張り付いていた。
先に沈黙を破ったのは、
聞き取ることもせずに聞いていた。
戸の毛織物は、風を留めることを表す幾何学模様が浮かび上がっていた
薄暗い光も、眠りの闇に身を落としていた彼には眩しかった。